600V系ブラシレスモータ(BLDC)の絶縁設計では、「沿面距離」と「クリアランス」 を正しく理解することが不可欠です。 特に600V帯では、①コロナ放電、②dv/dtストレス、③サージ電圧といった高電圧特有の現象が顕在化し、距離不足=即・絶縁破壊のリスク につながります。
本記事では、沿面距離とクリアランスの違いを、600V系BLDCの実務に直結する形でわかりやすく解説します。
空気中の最短距離(直線距離) のことです。
2つの導電部の間を、空気中を直線で測った最短距離がクリアランスです。
【クリアランスが不足すると何が起きる?】
空気の絶縁耐力を超えると、アーク放電(気中放電)が発生します。
雷が空気中を飛ぶのと同じ原理です。
【600V帯でクリアランスが重要な理由】
・過渡的なサージ電圧(900〜1200V級)が発生する
・dv/dtが高く空気のイオン化が起きやすい
・高度・湿度の影響を受けやすい
600V帯では、4〜8mm程度のクリアランスが必要とされます(用途・規格により変動)。
こちら高電圧ブラシレスモータの絶縁設計を参照ください。
絶縁物の表面を這う距離のことです。
絶縁物(樹脂・絶縁紙・基板など)の表面を、アリが歩くように這って測る距離が沿面距離です。
【沿面距離が不足すると何が起きる?】
絶縁物の表面に
・湿気
・ホコリ
・汚れ
が付着すると、そこが導電性になり、トラッキング(表面炭化)→絶縁破壊が発生します。
【600V帯で沿面距離が重要な理由】
・高電圧で表面電界が強くなる
・dv/dtノイズが表面リークを誘発
・汚染度(Pollution Degree)で必要距離が大きく変わる
沿面距離は、材料のCTI(比較トラッキング指数)によっても必要距離が変わります。
※CTI:(Comparative Tracking Index)絶縁材料の耐トラッキング性を評価するための指標です。
※トラッキング:絶縁物の表面に起きる放電により電気の通り道である導電路(トラック)が形成されることで、導体間でショート(絶縁破壊)してしまうことをトラッキングと言います。

沿面距離とクリアランスには物理的な関係はなく、別々に設計に考慮される必要があります。
高電圧ブラシレスモータの絶縁設計のコラムでも紹介している通り、
600V帯では以下の現象が顕在化します。
・コロナ放電
・dv/dtストレス
・サージ電圧
・表面トラッキング
・絶縁紙の劣化
・巻線ショート
つまり、沿面距離・クリアランス不足=モータ寿命の短縮 につながります。
✔ クリアランス
・サージ電圧を考慮して規格値+30〜50%の余裕
・高度・湿度の影響を考慮
・コイルエンドの電界集中に注意
✔ 沿面距離
・CTIの高い材料(PI、PENなど)を使用
・スロットライナーを厚くする
・絶縁紙の重ね合わせ部を最適化
・表面の汚染・湿度を考慮
✔ 共通
・VPI含浸で空隙をなくす
・dv/dtフィルタでストレスを低減
・ケーブル長を短くしてサージを抑制
沿面距離とクリアランスは、600V系BLDCの絶縁設計における“2つの柱” です。
・クリアランス=空気中の最短距離(アーク放電を防ぐ)
・沿面距離=絶縁物表面の距離(トラッキングを防ぐ)
600V帯では、
・dv/dt
参考コラムSiC-MOSFETのdv/dtと絶縁設計の関係
・サージ電圧
参考コラムサージ電圧とケーブル長の関係
・コロナ放電
参考コラムコロナ放電とは?
といった高電圧特有の現象が顕在化するため、規格値ギリギリではなく、余裕を持った設計が必須です。
銀河電機では、600V系・5〜10kW級BLDCに特化した絶縁設計・沿面距離/クリアランス設計・コロナ対策 を行っています。