600V系ブラシレスモータ(DCBL)では、インバータのスイッチング素子がSi-IGBTからSiC-MOSFETへ移行 しつつあります。 しかし、SiC-MOSFETを採用すると必ず問題になるのが dv/dt(電圧立ち上がり速度) です。 SiC-MOSFETは高速スイッチングが大きなメリットですが、その裏側で 絶縁材へのストレスが急増し、コロナ放電・絶縁劣化を引き起こす という課題があります。
本記事では、SiC-MOSFETのdv/dtがなぜ問題になるのか、600V系DCBLの絶縁設計にどう影響するのか、どう対策すべきかをわかりやすく解説します。
v/dtとは、電圧がどれだけ速く変化するか(電圧立ち上がり速度) を表す指標です。
Si-IGBT:
・数十〜数百 V/μs 程度
SiC-MOSFET:
・数千 V/μs(1〜10 kV/μs)に達することもある
つまり、SiC-MOSFETはIGBTの10〜50倍の速度で電圧が変化するということです。
理由は材料特性にあります。
【SiCは絶縁破壊電界がSiの約10倍】
→ 高耐圧でも薄い層で作れる
→ 電界が集中しにくい
→ スイッチングを高速化できる
【キャリア移動度が高い】
→ 電流の立ち上がりが速い
→ スイッチング損失が小さい
これらの特性が、SiC-MOSFETの高速スイッチング(=高dv/dt) を実現しています。
600V系BLDCでは、dv/dtが高いと以下の問題が発生します。
① 絶縁材に大きなストレスがかかる
dv/dtが大きいほど、絶縁材に瞬間的な電界が集中します。
特に以下の部位が危険:
・コイルエンド
・スロットライナー
・絶縁紙の重ね合わせ部
・樹脂の微小空隙
→ 絶縁破壊のリスクが増加
② コロナ放電が発生しやすくなる
dv/dtが高いと、絶縁材の表面や空隙で 局所的な電界が急上昇します。
これがコロナ放電 → 絶縁劣化 → 巻線ショート につながります。
600V帯では、SiC-MOSFETのdv/dtがコロナ放電の主因になると言っても過言ではありません。
③ モータケーブルでサージ電圧が発生
dv/dtが高いと、モータケーブルのインダクタンスと反射でサージ電圧(オーバーシュート)が発生 します。
例:600V → サージで 900〜1200V に跳ね上がることもある
→ 絶縁破壊の直接原因
④ ベアリング電食(電蝕)が発生
dv/dtが高いと、シャフト・ベアリングを通じて高周波電流が流れ、ベアリング電食(フルーティング) を引き起こします。
→ 高出力BLDCでは特に問題になる
600V系DCBL × SiC-MOSFET では、以下の対策が必須です。
①コイルの絶縁強化(VPI含浸)
・真空含浸(VPI)で空隙をなくす
・エポキシ樹脂で固化
・コイルエンドの絶縁紙追加
・スロットライナーの厚み増加
→コロナ放電の発生源を物理的に潰す
②dv/dtフィルタの追加
インバータ側に
・dv/dtフィルタ
・サイン波フィルタ
を入れることで、dv/dtを1/5〜1/20に低減 できる。
→ 絶縁寿命が大幅に延びる
③ケーブル長を短くする
ケーブルが長いほどサージ電圧が増えるため、インバータとモータの距離を短くする のが基本。
④ベアリング絶縁・アースブラシ
ベアリング電食対策として
・絶縁ベアリング
・アースブラシ
・シャフトグラウンドリング
を採用する。
⑤ 絶縁設計の余裕を増やす
600V帯では、規格値ギリギリでは不十分。
クリアランス・沿面距離は規格+30〜50%の余裕 を持たせるのが望ましい。
SiC-MOSFETは600V系DCBLにおいて高効率・小型化・高速応答 を実現する強力な技術です。
しかしその一方で、高dv/dtが絶縁材に大きなストレスを与え、コロナ放電・絶縁劣化・サージ電圧・ベアリング電食を引き起こすという課題があります。
そのため、
・VPI含浸
・絶縁紙強化
・dv/dtフィルタ
・ケーブル長最適化
・ベアリング絶縁
などの総合的な絶縁設計が不可欠です。
銀河電機では、
600V系・5〜10kW級DCBL × SiC-MOSFET の絶縁設計・dv/dt対策 に対応しています。
用途に応じた最適仕様をご提案できますので、お気軽にご相談ください。