インホイールモータは本来、回転体にモータを内蔵することで伝達系を最短化し、応答性と効率を高める技術です。しかし「ホイール専用」というイメージが強く、産業機器への応用が十分に進んでいません。伝達ロス低減、テンション安定、スペース削減など多くの利点を持つこの方式は、月数千台規模の小型・中出力市場を形成し得る有望な技術です。ケーススタディで実証された効果を踏まえ、汎用インホイールモータとしての新たな展開を目指します。
本稿ではその概念を拡張し、プーリーやスプロケットにモータを内蔵する“インプーリーモータ/インスプロケットモータ”という新しいカテゴリを提案します。
インホイールモータという言葉は、電気自動車の車輪にモータを内蔵する技術として広く知られている。しかし実際には、技術者の間でも「ホイール以外に使えるのか」「タイヤが付かないのにインホイールと言えるのか」といった誤解が少なくない。
この“言葉の制約”が、インホイールモータの応用範囲を狭めてしまっている側面がある。
本来インホイールモータは、回転体の直近にモータを配置し、伝達系を最短化することで応答性と効率を高める技術である。
つまり、ホイールに限らず、プーリーやスプロケットにモータを内蔵することも同じ思想の延長線上にある。
そこで本稿では、従来の「インホイール」という言葉の枠を広げ、“インプーリーモータ” “インスプロケットモータ”といった新しいカテゴリを提案しながら、回転体内蔵モータの可能性を再定義したい。
インホイールモータは「ホイール内蔵モータ」と直訳されるため、どうしても“車輪専用”というイメージが強い。
しかし技術的には、
・モータを回転体に直結する
・伝達系を極限まで短くする
・応答性と効率を最大化する
という思想が本質であり、ホイールである必要はない。
にもかかわらず、言葉のイメージが先行し、
この“言葉の壁”を取り払うことが、応用範囲を広げる第一歩になる。
プーリーやスプロケットにモータを内蔵すると、従来のモータ+減速機+伝達機構という構成から、伝達系がほぼゼロの直結駆動へと変わる。
これが多くのメリットを生む。
◎ 応答性の劇的向上
シャフトのねじれ遅れがほぼ消失し、トルク応答が高速化する。
サーボ制御の帯域が広がり、振動抑制や負荷変動への追従性が向上する。
◎ テンションの安定化
ベルトやチェーンのテンション変動が減り、制御が安定する。
応答性向上とテンション安定は表裏一体であり、機械の静粛性や寿命にも寄与する。
◎ 伝達ロスの低減
伝達経路が短くなることで、効率が向上する。
ケーススタディ:ラジアルギャップのインホイールモータを用いたプーリ内蔵駆動システムで伝達ロスを低減し、駆動効率を向上
◎ スペースの有効活用
モータを回転体に内蔵するため、周辺の機構スペースを大幅に削減できる。
小型搬送機、ロボット、AGV、産業機器などで設計自由度が大きく向上する。

現在のインホイールモータ市場は自動車用途およびAGV/AMRなどの低速EVが中心であり、
・多品種少量でコストが下がらない
・車種ごとに要求仕様が異なる
・バネ下重量や耐環境性など自動車特有の制約が厳しい
という理由から、多品種少量となり量産が進みにくい。
その結果、
高級車(例:ベンツ、ポルシェのYASAモータ)に限定される → 市場が広がらない
という循環が続いている。
しかし、産業機器の世界では、小型・中出力の回転体内蔵モータが大きな価値を持つ。
自動車ほどの過酷な要求がない産業機器の世界では、小型・中出力の回転体内蔵モータが大きな価値を持つ。
◎ 月数千台規模の市場が成立する理由
・プーリーやスプロケットは規格化されており、標準化しやすい
・OEM向けにモジュール化すれば採用しやすい
・自動車ほどの耐環境性が不要
・産業機器は用途が多岐にわたり、横展開が容易
◎ 想定される用途
・産業用ロボットの関節・駆動プーリー
・AGV/AMRの駆動ユニット
・自動倉庫の昇降・搬送機構
・フィットネスマシンの負荷制御
・小型コンプレッサー・ポンプの直結駆動
・自転車・軽車両のハブ/スプロケット
・ドローンのロータ駆動
これらはすべて、月数千台規模の安定した市場を形成し得る。
インホイールモータの本質は、回転体にモータを内蔵し、伝達系を最短化することによる性能向上である。
その思想をプーリーやスプロケットに拡張することで、応答性、テンション安定、効率、スペースのすべてを改善できる。
そして、小型・中出力の汎用インホイールモータ市場は、月数千台規模で十分成立する。
この新しいカテゴリを広めることで、インホイールモータ技術は自動車の枠を超え、産業機器全体へと広く展開していく可能性を持っている。