600V系ブラシレスモータ(BLDC)の絶縁設計では、VPI(真空加圧含浸) とBMCモールドのどちらを採用するかが、性能・寿命・コストに大きく影響します。 両者は似ているようで、実は目的も構造もまったく異なります。本喜寿では両者の違いを分かりやすく説明します。
VPI(真空加圧含浸)とBMCモールドの比較表

VPI(Vacuum Pressure Impregnation)は、巻線内部の空隙を樹脂で埋めて絶縁強度を高める処理。
・コロナ放電を防ぐ
・サージ耐性が上がる
・絶縁紙の寿命が延びる
・巻線の振動・摩耗を防ぐ
・熱伝導が良くなる
600V系BLDCでは絶縁寿命に影響する、非常に重要なプロセスになります。
詳細は、VPI(真空加圧含浸)とはをご覧下さい。
BMC(Bulk Molding Compound)は、ガラス繊維入りの熱硬化性樹脂でモータ全体を固めるモールド方式。
特徴
・固体絶縁(空隙ゼロ)
・高耐圧
・高dv/dt耐性
・高サージ耐性
・高振動耐性
・防水・防塵・防湿
構造強度が非常に高いため、取付などの構造部分と巻線のモールドを同時に成型することができます。
→ 車載モータ・航空・軍用などの過酷環境で採用される方式
【VPIは「巻線内部の空隙を埋める」】
→ 絶縁強化が主目的
→ モータ構造はそのまま
【BMCは「モータ全体を固体化する」】
→ 絶縁+構造強化+防水+防振
→ モータの構造そのものが変わる
つまり、VPIは絶縁処理、BMCは構造物という違いがあります。
✔ ① VPIで十分なケース
・産業用BLDC(ポンプ・コンプレッサ・搬送装置)
・5〜10kW級の一般産業用途
・SiCインバータ駆動でもケーブル長が短い
・コストとメンテ性を重視
・水冷・空冷どちらでもOK
✔ ② BMCモールドが必要なケース
・車載モータ(EV・HEV)
・航空・軍用
・完全密閉・防水が必須
・高振動・高衝撃環境
・dv/dtが極端に高い(>10 kV/μs)
・サージ電圧が非常に大きい
・絶対に巻線ショートを許容できない用途
→ 耐環境性・信頼性が最優先の領域
【VPIで十分】
・産業用途
・5〜10kW級
・SiCインバータでもケーブル長が短い
・絶縁紙+スロットライナー+VPIで十分な耐圧が確保できる
【BMCが必要】
・高振動(車載・航空)
・完全密閉(IP67〜IP69K)
・高dv/dt(>10 kV/μs)
・高サージ(>1200V)
絶縁破壊が絶対に許されない用途
✔ VPIのメリット
・コストが低い
・巻線の修理が可能
・熱伝導が良い
・軽量
・産業用途に最適
✔ VPIのデメリット
・完全密閉にはならない
・振動・衝撃には弱い
・絶縁性能はBMCに劣る
✔ BMCのメリット
・固体絶縁で絶縁性能が非常に高い
・高dv/dt・高サージに強い
・防水・防塵・防振
・高振動環境に強い
✔ BMCのデメリット
・コストが高い
・重い
・巻線の修理ができない(使い捨て)
・熱伝導は樹脂の性能に依存
600V系BLDCの絶縁方式は、VPI含浸とBMCモールドのどちらが優れているかではなく、用途で使い分けることが重要です。
・産業用途(5〜10kW級) → VPIが最適
・車載・航空・軍用 → BMCモールドが最適
600V系BLDCでは、VPI+絶縁紙+スロットライナー+コロナ対策の組み合わせが最も合理的で、性能・コスト・メンテ性のバランスが取れています。